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熊野から日本再生を祈る

昨年の3月11日。

ちょうど東京にいた私は、羽田空港に向かう高速道路であの地震を体験しました。到着した空港では、余震で街灯がゴムのようにゆらゆらとしなり、対岸で工場が燃えるのが見えました。「これは、えらいことになった」。それが、私の頭に最初に浮かんだ言葉でした。その後、東日本を襲った被害のすさまじさを知るにつけ、まさに国難と呼んでいいほどの大災害だと感じました。

 そして同年9月、今度は台風が熊野地方を襲い、熊野の山々は崩落、土石流、鉄砲水が発生し、深刻な被害をもたらしました。当社は120年前も大土石流に飲み込まれ、全境内地が甚大な被害を受けました。その時、すぐに鎮座地を高台に移すことを決断し、宮司だけでなく、多くの人が寄り添って、重機ひとつなく人力による作業だったにも係わらず、わずか1年半でみごとに御社殿上四社を復活・再生しました。このときに鎮座地を移していなければ、今回の水害の被害はより深刻だったかもしれません。そう思うと背筋が凍ると同時に、明治の人たちの素早く、的確な決断、卓越した先見の明、困難なことをやり遂げる底力に、あらためて感服しました。

 地震、台風、豪雨、噴火……自然の災害が多い日本で、過去、私たちは辛く苦しい境遇に置かれても、「歩み」を止めることなく、一歩一歩前へ進んできました。東日本でも熊野でも、まだ多くのがれきが残るなか、復興そして再生への道を多くの人が歩んでいます。これは、被災地だけの問題ではありません。誰にも起こりうることだからこそ、自分のこととして考え、それぞれにできることをしていかなければならないのではないでしょうか。

古くから、

熊野は死後(黄泉)の世界に通じる場所と信じられ、亡くなった人々と出会えると同時に、これまでの自分を一度リセットし、再び生まれ変われる場所でもありました。歴史をひもといても、多くの人が熊野を訪れ、自分を見つめ、これから先に進む道を自問していきました。熊野は、祈りの場所であり、よみがえり・再生の地なのです。

 最近も「今後のことを考えたくて」熊野に来たという東北の方がいらっしゃいました。熊野に来ることができなくても、それぞれの場所で自分たちの行く末を考えている方たちは、たくさんいらっしゃると思います。そうした人たちに、心を寄せ、不安を払拭し、あきらめてはだめだと伝えていきたいと、私は考えています。

 奇しくも今年、熊野本宮大社は正遷座百二十年大祭を迎え、毎月奉納行事を企画しています。今、生を受けている人々が心をひとつにして、亡くなられた方々の鎮魂と日本再生、自然の安泰を祈る御祭です。再生・復興はひとりでできるものではありません。直接被災した人も、そうでない人も、ともに心をあわせて未来に向かって歩めるよう、熊野からお祈りいたします。


くき・いえたか●1956年生まれ。熊野本宮大社代表役員宮司。 79年明治神宮奉職。88年熊野本宮大社権宮司。2001年熊野 本宮大社宮司を拝命、現在に至る。ほかに、神宮評議員、日本宗教代表者会議参与、和歌山県世界遺産熊野地域協議会委員など役職多数。

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