月刊ソトコトでは、トヨタの協力により、「ソトコト環境移動教室」を開催しています。子どもたちと一緒に体験するエ コロジー。あしたの地球のために、いまできることは?

そんなコンセプトから、毎月一回、様々なジャンルで活躍さ れる方々を講師として迎え、子どもたちと一緒にフィールド ワーク型の環境スクールを開催。

講義プログラムは、日本各地で活動されているNPOやNGOの 方々との協業で行っています。

ここでは、環境移動教室のレポートや、参加いただいた講師、 NPO/NGOのスタッフの方々のプロフィールも紹介しています。

今月のソトコト環境移動教室

 

上/「葉っぱを数えてごらん!」と、ヤツデの木の下に潜り込むケビンさん。右下/ヤツデの葉を摘んだ男の子。「見て。このヤツデの葉っぱは7枚だよ」。左下/子どもたちもケビンさんにならってヤツデの葉を採集。葉の数、大きさ、形、色、1本の木にもいろんな葉があることに気づく。

 

上/「一年中、葉っぱが茂る常緑樹」と、アオキの葉を示すケビンさん。右下/ため池に祀られた弁財天を見に行くケビンさんと子どもたち。左下/ヤブツバキも常緑樹。

 

右上/ホトケノザの茎を指でつまんでくるくると回してみる。「茎が四角い!」と、子どもたちは体感から植物の特徴を覚えた。右下/ホトケノザを採集用のビニール袋に入れる女の子。「後でスケッチしよう」。左/3月の里山には、太陽の光を浴びてナノハナもたくさん咲き揃っていた。

 

右上/ルーペでホトケノザの花を拡大して見てみる。「花の中の小さなオレンジ色のがおしべかな?」と男の子。ホトケノザは、本州以南に自生する野草。右下/葉の上にはテントウムシが。「この葉っぱを仏様の台座に見立て、“ホトケノザ”という名前がついたんだよ」とケビンさん。左/春の訪れを告げるオオイヌノフグリ。可憐なブルーの花が里山の野道を彩る。近縁種のイヌノフグリはピンクの花を咲かせる。

 

 日差しが暖かく感じる早春の空の下、東京からやって来た6人の子どもたちは、千葉県印西市の里山をルーペを手に歩いていた。先頭を行くのは、ケビン・ショートさん。印西市で暮らしながら、日本の里山の自然観察を続けているナチュラリストだ。
「このアオキやヤブツバキの木と、向こうのサクラの木。どんな違いがあるか、分かる?」
  ケビンさんは子どもたちと一緒に里山の野道を歩き、特徴的な植物を見つけるたびに足を止め、やさしい口調で話しかける。
「サクラは枯れているよ」
「そう。まだ3月初旬だから葉っぱがついてないね。でもアオキやヤブツバキには葉っぱがこんなにたくさんついている。それは、サクラが葉を落とす落葉樹で、アオキやヤブツバキは一年中葉っぱをつけている常緑樹だから。落葉樹は寒いところに、常緑樹は暖かいところに生える木なんだよ。この葉っぱを1枚もらっていきましょう」と、ケビンさんはアオキの葉を1枚摘む。子どもたちも摘み、大事そうにビニール袋に入れる。
  近くには、ヤツデも生えていた。葉の先端が大きな手のひらのように分かれている。
「『天狗の羽うちわ』って昔話を知っているかな? 葉っぱで扇ぐと大きくなったり小さくなったりする天狗の話。あれが、このヤツデの葉っぱだよ」
「ヤツデだから、葉の先が8つに分かれているのかと思ったら、9つありますね」と言うのは、NPO法人世界マメナジー基金の石橋直樹さん。太陽光発電を普及させるプロジェクトを進めている。この里山散策の後に、太陽電池パネルについての授業を行ってくれる予定だ。
「こっちは7つだよ」と、男の子も葉の先を数える。実は、石橋さんや子どもたちの指摘は正しく、ヤツデの葉の数はほとんどが7つか9つ。ヤツデの「八つ」とは葉が8つという訳ではなく、「多い」という意味からきているのだ。
「観察してみると、いろんなことが分かるんだよね」と、ケビンさんは笑う。子どもたちは気に入った大きさや形のヤツデの葉を摘み、ビニール袋に入れて、また歩きはじめた。

 

 

 

 ナノハナ、ヤマグリ、ナズナ、タネツケバナ……農村を彩るさまざまな植物を観察しながら、ケビンさんは里山の地形についても教えてくれた。
「この辺りは、台地に細長い谷が入り込んだ地形をしていて、こんな地形を谷津≠ニか谷戸≠ニ言います。シカの角のように、細くて幅の狭い谷が入り込んでいるんだよ。東京の山の手も同じ地形で、渋谷の道玄坂やスペイン坂も、谷から台地へ登る斜面なんだ。あの辺りも昔は自然が豊かだったんだよ」
  あの渋谷の街が里山の森に包まれた風景だったことを、子どもたちは想像してみる。だが、それはやはり難しいことのようだ。唱歌『春の小川』に歌われたのが、渋谷を流れる川だといわれていることも知らないのだから無理はない。
  そんな子どもたちに、ケビンさんは、紫色の小さな野の花を差し出して見せる。
「こうやって指で挟んでみて」
  子どもたちは、ケビンさんがするように指で花の茎をつまむ。
「カクカクする」
「茎が四角い」
「そう、茎が四角いよね。こうして野の花の茎をつまんで回してみて、四角かったら、だいたいがシソの仲間だと思っていいよ」
「シソ?」
「英語で、ミント。アイスクリームの上に小さな緑の葉っぱが載っているでしょ? あれがミント。これは、その仲間のホトケノザ。これは食べられないけどね」
「ホトケノザ」と男の子は繰り返しながら、紫の花を見つめる。
「花を観察するときはね」と、ケビンさんは男の子に近づく。  「自分が虫になったつもりで花の中に入っていくんだ。ルーペを出してごらん」
  子どもたちはみなケビンさんのところに集まり、一緒にルーペで花を覗き込む。
「この花は甘い蜜をつくっている。その蜜を吸おうと、君たち、虫は花の中に潜り込む。そうすると、このオレンジ色のおしべが君たちの背中に触れる。背中に花粉がつくんだ。このあたりに」と、男の子の背中に触れる。男の子はニコリと笑う。  
「蜜を吸っておなかがいっぱいになったら、君たちはまた別の花へと飛んでいく。背中に花粉をつけたまま。すると、背中の花粉が別の花のめしべに触れて、受粉させてあげることになるんだ。花はそうやって、虫に蜜をあげる代わりに、自分たちの花粉を遠くへ運んでもらっているんだよ」
  ケビンさんの話に耳を傾けながら、子どもたちは小さな虫になり、直径1ミリほどの小さな花の中に入っていった。

「地球温暖化問題が注目されていますが、自然を守り、そこに棲む生き物の多様性を維持することも大切なこと。森の植物が光合成をすることで大気中の二酸化炭素が減る。温暖化問題を解決するには、森林の保護がもっとも基本的な方策です」と言うケビンさん。印西市に移って20年。千葉ニュータウンの端、ベランダから里山が見えるマンションに暮らしている。「そのためには、まず自然に親しむこと。自然に足を踏み入れ、手で触れ、匂い、五感をすべて使って体験する。子どもたちには、知識よりも感動が必要です。ホトケノザという花の名前を覚えるよりも、指で触って茎が四角いことを発見する力を養ってほしい」。そうすれば、自然を愛する心が育まれ、地球温暖化に対する意識も変わると、ケビンさんは笑顔で話してくれた。

 

36年前に初来日してから、日本の自然の研究を続けるケビン・ショートさん。「コナラ、クヌギ、ケヤキ、ムクノキ、スダジイなど、印西の里山には樹木がいっぱい。ぜひ、散策に来てね」。

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・2009.01.05 NEW

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